糖尿病
糖尿病とは、すい臓から分泌されているインスリン(血糖を調節するホルモン)が不足したり、インスリンの働きが悪かったりするために、血糖値と呼ばれる血液中のブドウ糖濃度が増え、身体にさまざまな障害が起こる病気です。
糖尿病というと、その字のままに「尿に糖が出る病気」というイメージがありますが、実は血液中の糖分つまり血糖の割合が高くなる病気です。糖尿病と診断されても、血糖値のコントロールができれば普通の健康人とそれほど変わりのない生涯を過ごすことができます。生活習慣が病気に関係しているために、自己管理が大切な病気です。
発病の初期は自覚症状がないので、病気と気づかずに、そのまま放置しがちです。そのままにしておくと糖尿病の3大合併症といわれる網膜症、腎症、神経障害などの重大な合併症を招き、生活の質(QOL)が低下します。一年に1~2回の定期健診を受けることが重要です。
糖尿病の原因
糖尿病は、インスリンを作る膵臓のランゲルハンス島内のβ細胞が、自己免疫的な原因で破壊されて起こるⅠ型糖尿病と、遺伝的な体質と生活習慣などが原因となって発症するⅡ型糖尿病があります。ほとんどの場合はⅡ型糖尿病です。
両親・兄弟・祖父母・親の兄弟などの血のつながりのある方に糖尿病があると、遺伝的には糖尿病になりやすい可能性はあります。
昔は素質があっても、食料事情が悪かったため、発病しない場合も多かったと考えられますが、飽食の時代といわれる現代においては、家族に糖尿病の人がいなくても安心はできません。以下Ⅱ型糖尿病について話を進めます。
Ⅱ型糖尿病の原因として
- 食事の食べすぎ
- 運動不足
- 遺伝(体質的にインスリンの分泌量が少ない)
- 老化による膵臓機能の低下
- 薬剤(副腎皮質ホルモン剤や抗精神薬など)の副作用
- 身体的、肉体的ストレスによるインスリン作用の低下
- 妊娠
などの原因が考えられます。
糖尿病の症状
糖尿病は、多くの場合無症状で始まります。検診などで症状のない時期に糖尿病を発見することが重要です。
糖尿病の自覚症状としては以下のようなものがあります。
- のどがよくかわくようになった
- 体がだるく疲れやすくなった
- 尿の量と回数が多くなった
- 食事を減らしてないのに体重が急に減った
- やけにお腹がすくようになった
しかしながら、糖尿病の初期症状として痛みなどはないため、わかりにくく、健康診断などで、尿糖や血糖値の異常を指摘されるまで全く気づかない人がほとんどです。
糖尿病の検査
血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査などの血液検査を1~3か月ごとに定期的に行ないます。血糖値は食事がかなり影響するので、採血の何時間前に食事を食べたのかを把握しておきましょう。
HbA1c検査は1~2か月前から検査当日までの血糖管理状態を調べるための検査です。6.5%以上ですと糖尿病が強く疑われます。正常値は4.3~5.8%で血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。
Cペプチド検査では、膵臓がインスリンを作る力を調べることができます。
インスリンの前駆物質であるプロインスリンの構成成分で、膵β細胞内でインスリン部分とC-ペプチド部分(アミノ酸31個)に分離されて血中に放出されます。
Cペプチドはインスリン放出と同時に血液中に出るもので最終的に尿から排出されます。空腹時血中Cペプチド値が0.5 ng/ml以下であれば、膵臓のインスリン分泌予備能がかなり低くなっていることが予想されます。
24時間尿をためてCペプチド検査をすることを尿中Cペプチド検査と呼び、1日にどのくらい膵臓からインスリンが出ているかが分かる有用な検査法ですが、外来ではなかなかできません。
因みに、尿に糖分が混じる尿糖は、血糖値が180mg/dl前後以上ならないと、出てこないため、糖尿病の診断には尿糖を調べるだけでは不十分で、血糖値を調べる必要があります。
その他にも合併症がないかどうかをみるために尿検査や腎臓・肝臓などの血液検査をします。尿アルブミンの量は糖尿病性腎臓障害を早期に見つけるために有用です。
糖尿病の合併症は目に出やすいので、眼科で定期的に眼底を検査してもらう必要があります。そのほか必要に応じて、心電図、頸動脈エコーなどが行われます。
糖尿病の診断
血液中のブドウ糖の値(血糖値)が、ある一定を超えた場合に糖尿病と診断されます。 具体的には、空腹時血糖値(食後8時間以上絶食)が126mg/dl以上もしくは、食後の血糖値または75g経口ブドウ糖負荷後の2時間血糖値が200mg/dl以上だった場合、別の日にもう一度確認し、あてはまれば、糖尿病であると診断できます。
また、血糖が正常よりも高い割には、糖尿病の診断基準には当てはまらない人を境界型といい、将来的に糖尿病になりやすく、動脈硬化も促進されやすいと言われています。
糖尿病であるかどうかは、朝食を食べずに来院してもらい、朝に空腹時血糖値などを測って診断します。血糖値は高すぎても低すぎても問題です。
空腹時の血糖値検査の結果、糖尿病が疑われた場合は、さらに詳しい検査を行い、糖尿病であるか診断をします。
糖尿病型 (右1から3のいずれかが確認された場合) |
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正常型 (右1および2が確認された場合) |
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境界型 | 糖尿病型もしくは正常型のいずれにも属さない場合には境界型糖尿病と判定します。 |
別の日に行った検査で糖尿病型が再度確認された場合には糖尿病と診断します。
ただし、次の1から4のいずれかがある場合は、1回の検査で糖尿病型であれば、糖尿病と診断します。
- 糖尿病の典型的な症状(多飲、口渇、多尿、体重減少)がある。
- HbA1cが6.5%以上。
- 過去に糖尿病型であったことがある。
- 確実に糖尿病性網膜症がある。
実際の臨床の現場では、たとえ境界型であっても患者さんと相談の上、すぐに治療を開始することはよくあります。
糖尿病の合併症
糖尿病になると、さまざまな合併症が起こります。動脈硬化が進行し、心筋梗塞、狭心症などの心臓の病気、脳梗塞などの脳血管疾患、足の閉塞性動脈硬化症などの重大な病気にかかりやすくなります。
糖尿病には細小血管合併症として糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症(3大合併症)があります。糖尿病性網膜症は眼の網膜に出血が起きるなどして、最悪の場合失明することがあります。日本人の失明の原因で最も多いのが糖尿病性網膜症によるものです。糖尿病性腎症は腎臓が機能しなくなり、尿の蛋白が増えて、腎不全を起こします。ひどくなると血液透析が必要になります。
糖尿病性神経障害は排尿障害、インポテンツ、下痢、便秘などの自律神経障害や足がしびれる末梢神経障害があります。糖尿病の大血管障害として、脳梗塞などの脳血管障害、心筋梗塞などの冠状動脈疾患、閉塞性動脈硬化症、足を切断する必要が出てくる足壊疽(えそ)などがあります。特に食後の高血糖は心血管イベントと関係が深く、境界型の糖尿病のように軽度の血糖上昇でも、動脈硬化性疾患の発生率は、正常の人に比べて2~3倍と高くなります。その他にも歯周病や脈拍の異常、白内障、膀胱炎、肺炎、気管支炎、こむらがえりや筋萎縮、などの合併症がおこることがあります。
糖尿病の治療法
糖尿病の治療には、大きく分けて食事療法、運動療法、薬物療法の三つに分けられます。その中でも、最も重要なのは食事療法で、糖尿病治療の基礎となるものです。血糖値をできるかぎり正常に近くすることで、合併症の予防も可能です。
動脈硬化性疾患自体は、血糖だけ良くても発症を防止することはできません。高血圧、脂質異常症(高LDL(悪玉)コレステロール血症・低HDL(善玉)コレステロール血症・高中性脂肪血症)、喫煙など他の動脈硬化を促進させる要因もコントロールすることが重要となってきます。
生活習慣を変えることは、インスリンの働きを改善する作用があり、効果的です。初期で軽度の糖尿病であれば、食事療法をしっかりすれば、かなり改善します。治療を始める前には、必ず相談の上、患者さんにあったものを行うことが大切です。
食事療法 |
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食事療法のポイント
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食事療法で推奨される指示エネルギー量の配分
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薬物療法 |
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生活習慣の改善で思うような効果が現れないときは、薬物療法を考慮することになります。空腹時血糖が250mg以下の場合は、経口糖尿薬が使われるのが一般的です。 肥満があるかないかで、初期療法が変わってきます。肥満がある(BMI25以上)場合には、まずはメトホルミン(メルビン)、αグルコシダーゼ(グルコバイ、セイブル)、ピオグリタゾン(アクトス)などが単独あるいは併用で使われます。これにて不十分(HbA1c7以上)な場合は、SU剤(アマリール)が併用される場合があります。 肥満がない(BMI25未満)場合では、空腹時血糖150mg未満ではグリニド製剤(スターシス、グルファスト)が考慮され、150mg以上ではSU剤(グリミクロン、アマリール、オイグルコン)が使用される場合が一般的です。それにてさらに不十分な場合にはメトホルミン(メルビン)が併用されます。これら併用にてなお不十分な場合は、インスリン療法に移行することになります。 最近糖尿病治療薬として、新しい作用機序の薬剤が複数登場してきました。食事の摂取に伴い消化管から分泌され、膵臓β細胞に働きインスリンの分泌を促す、インクレチンというホルモンに関連した薬剤です。インクレチンには、主に小腸下部のL細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1(GLP1)と、小腸上部のK細胞から分泌されるGastric Inhibitory Polypeptide(GIP)が知られています。 これらは膵臓β細胞に作用して、インスリン分泌を促しますが、血中の酵素(DPP4)によって速やかに分解されてしまうという困ったことがありました。そのためインクレチンを分解してしまう、DPP4の酵素活性を阻害するDPP4 阻害薬(ジャヌビア、エクア)と、分子構造を一部変更し、代謝されにくくした、GLP1アナログ(ビクトーザ:一日1回注射で投与)が考えだされました。肥満や低血糖を起こしにくいといった特徴があり、単独あるいは既存の経口糖尿病薬との併用で、DPP4阻害薬のジャヌビア等は治療効果に確実な手ごたえを感じています。 |
インスリン治療 糖尿病自己注射指導管理の項を参照してください。 |
糖尿病の注意点
糖尿病はいったん発症すると、完治することはありません。しかし糖尿病の薬を飲み始めても、食事療法、運動療法によって、薬を飲まなくても血糖値が正常の範囲内になり薬をやめることができることもあります。
また、いったんインスリンの使用を開始しても、糖毒性(高血糖自体がインスリン抵抗性を高め、さらに血糖値を上げるという悪循環)がとれ、代謝が安定してくると、インスリンをやめられることがあります。 ですが決して自分で勝手にやめてはいけません。必ず、医師の指導のもとに行ってください。場合によっては生命を左右するような事態になります。
シックディについて
糖尿病の患者さんが、風邪や胃腸炎など他の病気にかかって、通常の食事が取れなくなった時のことを、シックデイと言います。こういう状態の時には、経口糖尿病薬やインスリンの使用については、それぞれ異なった原則があります。
経口糖尿病薬では基本的には服用を中止します。ただしSU剤(アマリール、オイグルコン、グリミクロン)については、食事摂取量が普段の半分以下であれば中止しますが、半分以上摂れたならニ分の一量を服用します。
インスリンについては、シックデイの時は普段の量を注射するとむしろ低血糖になります。しかし食事が取れなくても血糖値は上昇していますので、決して中止しないよう注意が必要です。 長時間持続型(ランタス、レベミル)や中間型(ペンフィル30R)では、食事を全く摂取できないときは、原則ニ分の一量に減量します。その後は自己血糖測定を頻繁(3~4時間おき)に行い、血糖が200mg/dl以上であれば、超速効型(ノボラピッド)を2~4単位追加します。
食事は炭水化物を主体にした消化吸収のよいものを中心に、食品を交換して、指示エネルギーをできるだけ保持するようにしてください。また、シックデイで熱がある時、下痢やおう吐がある場合は脱水になりやすいので、水分や電解質をできるだけとるようにしてください。
低血糖について
経口糖尿病薬やインスリン注射をしている患者さんは、常に低血糖症状に注意をしてください。 低血糖症状は、通常では血糖値が70mg/dl以下になると異常な空腹感、生あくび、悪心などが現れます。50mg/dl以下では倦怠感、発汗、動悸、ふるえが出現、30mg/dl以下では意識が消失します。
低血糖は一刻を争いますので、常にブドウ糖、角砂糖、飴などを持ち歩き、低血糖らしいと感じた時はすぐに服用するなどの対策をしてください。
糖尿病の予後
高い血糖値が続くと、いろいろな合併症が出てきて患者さんの予後を左右します。症状がないため、糖尿病の薬を飲まなくなってしまう方もいらっしゃいます。しかし定期的に血液中の血糖値、HbA1cなどを測り、適切にコントロールすることが、動脈硬化の進行を抑えて網膜症、脳梗塞、心筋梗塞、腎臓病などの予防になります。
適正な生活習慣を心がけることと治療の継続が、将来のご自身の生活の質を左右することになります。
榎本医院ではさまざまな糖尿病患者さんの健康管理をお手伝いいたします。
榎本医院
概要- 院長
- 榎本 真也 医学博士
- 前院長
- 榎本 哲 医学博士
- 標榜科目
- 内科、脳神経外科、呼吸器内科、小児科
- 医師数
- 2名
- 資格
- 日本内科学会認定医、日本脳神経外科学会専門医
日本救急学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医
日本脳神経血管内治療学会認定専門医 - 住所
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